家族へ残す想いを形にする遺言作成の流れ
2024/06/11
遺言という言葉を聞くと、死に向かっている人が作成するものと思われがちですが、実は健康であるうちに作成することが大事です。遺言は、自分の死後に家族や親しい人たちに残したいメッセージや財産の分配方法を細かく記載したもので、遺言を残すことは、自分自身や周囲の人たちの安心につながる大切なことです。本稿では、家族へ残す想いを形にする遺言作成の流れをご紹介します。
目次
1. 遺言作成の重要性とは
遺言作成とは、自分が亡くなった後に遺す財産の管理や相続人の指定などを明確にするものです。遺言を作成することによって、相続人間のトラブルや不和を回避することができます。また、遺言を作ることで、自分が望む形で相続人に財産を配分することができます。
遺言を作成する際には、遺言書案を作成して弁護士や司法書士、税理士等専門家に相談することが望ましいです。遺言書の案は、パソコン・携帯電話やスマートフォンのアプリなど、様々な形式で作成することができます。しかし、正式な遺言書として作成する場合、特に自筆証書遺言の作成においては、民法に規定のあるとおり相続財産目録以外は手書きで作成する必要があります。
一度作成した遺言書は訂正できないわけではありません。むしろ遺言は定期的に見直す必要があります。例えば財産の増減や配偶者や相続人が変わった場合には、遺言書を改めて作成することが必要となる場合があります。そのような事態に備えて、「Aが万が一自分より先に亡くなった場合はAの息子であるBへ相続させる」といった文言の遺言書を事前に作成することも可能です。
遺産相続に関しては、辛い話題の一つかもしれませんが、一度は考えてみてもいいかもしれません。遺言書を作成されることで、自己の最後の意志を明確に残せるだけでなく、予期せぬ揉め事を未然に防ぐこともできます。特に、相続に対して細かく考えたい場合や、争いを避けたいと思うなら、専門家に相談されることが大切です。
2. 遺言書作成に必要な手順と手続きとは
遺言書は、自分自身の死後に財産や財産管理に関する意思を残す大切な書類です。しかし、遺言書が大切だと言ってもどのような手順で遺言書を作成すべきなのでしょうか?
まず、遺言書を作成する前に、自分の財産状況を整理しましょう。
例えば、銀行や支店名、口座番号など現在保有している財産について把握し、できるだけ遺言書に記載すべきであるといえます。遺言書等に記載がない場合は、そのような財産を相続人が見つけることができないということも考えられるからです。その他、不動産についても同様です。最後に住んでいた住居などは、特段記載していなくとも相続人は把握できますが、居住地以外で不動産を所有している場合などは、固定資産税の納付書等からしか当該不動産の在処がわからず、さらに固定資産税がかからないような不動産については相続人がある程度調査しても把握できない可能性が高いからです。さらに自分でも、当該不動産に関する権利証等を紛失している場合は、当該不動産を特定することが難しい場合もあります。そのような場合は、市区町村に名寄帳というものを取り寄せ自身の不動産に関する情報を取得することも必要になります。その他にも金融資産として株などの有価証券がありますが、その場合は口座を開設している証券会社なども記載すべきであるといえます。暗号資産であれば暗号資産取引所、現物で金をもっている場合はその保管場所など、財産の在処は自分自身しか把握していないことも多く、相続人であっても容易に調査できないことは肝に銘じておくべきであるといえます。
その後、財産を取得する相続人の状況等も考え、どのように財産を分配すべきかを考えます。資産が多い場合は、節税効果も考え専門家に相談することも検討すべきでしょう。また民法の規定では遺留分というものもありますので、後々争いにならないようにするには、この遺留分の規程も考慮する必要があるといえます。良かれと思って一方の家族にできるだけ遺産相続させようと遺言書を書いたことが、兄弟姉妹間で紛争となってしまう結果となることはよくあることです。
その次に、公正証書遺言と自筆証書遺言のどちらで作成する方が良いかを決めることとなります。公証人役場で公証人に遺言書を作成してもらう場合は、公証人と打ち合わせをして必要な書類や公正証書案を事前に提出し、その後、証人2名立会いの下、公正証書で遺言書が作成されることとなります。 自筆証書遺言を作成する場合は、先ほども記載した通り、基本的には自分で書いて署名捺印する必要があります。しかし、日付の記載や署名押印が必要であること等、一定の法律的な要件を満たす必要があるため民法の規定を必ずチェックしてください。公正証書遺言の場合は、公証役場で公証人により証書に記録し、保管されます。この方法であれば、自筆証書遺言と違い、相続開始後に検認手続きを経る必要がないうえ、後日遺言書の内容を訴訟で争われる可能性が低くなるため、最終的には公正証書で遺言書を作成することをお勧めします。
以上のように、遺言書を作成する手順や手続きの内容について記載させて頂きました。自筆証書遺言と公正証書遺言、どちらが良いかは自分の状況によって異なります。例えば健康に問題があるため公証人役場に行くのが難しい場合はとりあえず自筆証書遺言を作るということも検討すべきです。しかし、最終的には公正証書として作成されたほうが、相続手続きを行なう相続人にとっても助かることは前述したとおりです。
3. 遺言書にはどのような内容が必要か
遺言書は、遺言者本人が書く範囲であれば自由に書くことができますが、基本的な内容として以下のものが挙げられます。まず、財産の分配についての内容です。多くの遺言書は、この財産の分配内容がほとんどといえるでしょう。その際、前述しましたが、財産の分配については相続財産額によっては税金面を考慮することや、一部の相続人が偏った恩恵を受ける場合は遺留分を考慮する必要があります。
次にあまり聞きなれないかもしれませんが、当該遺言の執行者の指定も行われます。この人物には、遺言者本人が信頼できる人物を指定することが求められます。なぜなら、相続に関する手続きを実際に行うのは遺言執行者であり、当該遺言執行者が手続きをしてくれないことで、相続手続き自体が不調に終わるケースも実際にはあるからです。さらに、遺言書の作成時期によると遺言執行者に復任権といい他の人に任せることが権限上認められないケースもあるので、遺言執行者の指定には注意が必要です。個人的には、司法書士や弁護士などの専門家を遺言執行者に選任することも検討する方が良いと考えます。
その他、この遺言書がどのような経緯や思いで作られたのかも記載することができます。例えば、少し体の弱い孫がいる子供には、多く遺産相続させたいという気持ちがあってこのような内容にした、などです。このように事情を記載することで、未然に紛争を防止することも考慮に入れる必要があります。
以上、遺言書には必要な内容があります。遺言者本人が納得できるよう、十分な時間をかけて準備することが望ましいです。
4. 家族のためにできることとは
相続において大切なのは家族への想いを形にすることです。そのためには、相続対策を事前に考え、適切な方法を選択することが重要です。遺言書の作成はその最たるものです。遺言書がないため、仲の良かった兄弟姉妹が犬猿の仲になってしまったというケースはよく見受けられます。残された家族のためにも遺言書の作成は必ず行ってほしいと思います。
その他に家族のためにできることはあるでしょうか?例えば、負債が多いなら、相続放棄の手続きを生前に勧めておくことも家族を守る上で大切なこととなります。相続放棄は、相続人が自分の財産を相続しないこととする手続きで、必ず家庭裁判所に手続きを行なう必要があります。相続開始後に、遺産分割協議等で負債を放棄できると考えている方もいるようですが、そのようなことはありません。必ず自己が相続人であると認識した時から3か月以内に相続放棄を家庭裁判所に申述することを勧めます。
遺産相続する資産が多い場合は、生前贈与も有効です。生前贈与は、生前に自分の財産を子や孫などに贈与することで、相続税を回避する方法もあります。当事務所では税理士と連携して相談に乗らせて頂いております。
5. 遺言書作成後の注意点とは
遺言書を作成した後は、幾つかの注意点が存在します。
まず一つ目は、遺言書の存在を誰に知らせておくかという問題があります。知らせなければいいのではないかと思うかもしれませんが、知らせない場合は、遺言書が見つけられず通常の相続手続きが行われる場合もあります。通常、遺言執行者が専門家である場合は、遺言書の謄本等を専門家が預かってもらうという方法をとります。そうでない場合は、死後遺言書の存在がわかるように、一部の人にはその在処を教えておく必要があると言えます。
二つ目は、状況が変化した場合です。頼りになる子供が、不慮の事故にあい寝たきりになってしまった等、人生は何が起きるかわかりません。その際は、遺言書を作成し直す必要があるでしょう。遺言書は、基本的には新しい遺言書が有効となります。ただし、一つ目の遺言書と二つ目の遺言書の内容が重複しない内容については、一つ目の遺言書も有効となる部分が出てきてしまうことには注意が必要です。
遺言書の作成については、相談だけでも受け付けております。興味のある方は当事務所にご相談ください。
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